■「麻生vs反麻生」二分の可能性も
安倍晋三首相の辞任表明の衝撃の渦中で、自民党各派閥は12日、さっそく総裁選に向け動き出した。「ポスト安倍」の最有力は麻生太郎幹事長だが、最大派閥の町村派も独自候補の擁立を検討。津島、谷垣両派などにも「レーゾンデートル(存在理由)」をかけて候補擁立を目指す動きがある。政権が代わっても参院での野党優勢は変わらないだけに、「勝負師」の小泉純一郎前首相の再登板を求める動きも急浮上しており、混沌(こんとん)とした事態が続きそうだ。
「政治空白は許されない。国民に政治責任を果たすために早急に後継総裁を選出したい」
麻生氏は12日夕、緊急総務会後に記者会見し、両院議員総会での「簡易版」の総裁選とする方針を説明。自身の出馬については「ホホホ…。聞くのも早すぎるし、答えるのも早すぎる」と言葉を濁した。
しかし、麻生氏は周囲に「自民党は未曾有の危機だが、そこから逃げていては政治家をやっている意味はない」と漏らしており、出馬の意向を固めつつあるようだ。
「選挙の顔」としては麻生氏が最有力であり、首相の「戦後レジーム(体制)からの脱却」路線を支持してきた若手・中堅や地方組織では、麻生氏の人気が高い。ただ、その歯にきぬ着せぬ発言から敵も多い。
加藤紘一元幹事長や山崎拓元副総裁とは「犬猿の仲」、古賀誠元幹事長、中川秀直前幹事長との関係も冷え切っている。先の内閣改造をめぐり、森喜朗元首相との間にも微妙な溝が生じた。小泉チルドレンといわれる1回生議員も、平沼赳夫元経産相の復党問題をめぐり、麻生氏に不信感を強めている。
各派閥は12日午後、幹部会や総会を断続的に開き、所属議員から意見を聞いたが、明確な方針は打ち出せなかった。
そうした中、首相の出身派閥である町村派は独自候補擁立で動き出した。有力なのは福田康夫元官房長官と町村信孝外相だ。どちらが候補となるかで総裁選の流れは大きく変わる。
福田氏が出馬すれば、参院選後に古賀、山崎、津島各氏らが「安倍退陣、福田氏擁立」を画策した経緯もあり、総裁選は「麻生氏vs福田氏」の一騎打ちとなる公算が大きい。ただ、古賀、山崎、津島各派には「隠れ麻生ファン」も多く、総裁選を機に派閥再編が加速しそうだ。
町村氏が町村派の候補となれば、各派は額賀福志郎財務相、谷垣禎一元財務相らを擁立し、候補者が乱立する可能性もある。こうなると1回の投票での過半数獲得は難しく、決選投票を見据えた2位-3位連合を模索するなど各派間の激しい駆け引きが繰り広げられた末、自民党は「麻生vs反麻生」に二分される可能性もある。
町村氏は自らの出馬について「まったく考えていない!」と言い切ったが、外務省高官には「これから忙しくなる」と漏らすなど微妙な心境のようだ。福田氏は「将来のことは話さない」とけむに巻きつつ、「一般論だが、(政治空白により)国民に迷惑をかけることは許されない」と述べた。
町村派の動向のカギを握る森氏はフランスに外遊中だったが、13日朝に急遽(きゅうきょ)帰国することを決めた。他派閥は町村派の動向を見極めてから方針を決める算段のようだ。
一方、1回生を中心に小泉氏の再登板を求める声も強まり、31人が12日夜、都内のホテルに集まり、「小泉前総裁の再登板を実現する有志の会」を結成した。
このほか、「選挙管理内閣」として実務派の与謝野馨官房長官の擁立を模索する動きもある。「改革派」の若手・中堅からは国民的人気のある舛添要一厚生労働相を推す声も上がる。
ただ、誰が総裁になっても民主党は早期に解散・総選挙に追い込む方針に変わりはなく、次期政権の前途は多難だ。加えて自民党が派閥談合型の総裁選を進めれば、いっそう重大な危機に陥ることになる。