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日本経済は景気後退色が一段と鮮明になってきた。日銀が1日発表した9月の企業短期経済観測調査(短観)は、日本経済の牽引(けんいん)役である大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)が2003年6月以来、5年3カ月ぶりのマイナスとなり、世界経済の同時減速に直面する企業の苦境を浮き彫りにした。金融危機の連鎖に歯止めが掛からなければ、外需に依存する日本経済の低迷が長期化するのは必至だ。(本田誠)

 短観を受けて、日銀は10月末の金融政策決定会合で08、09年度の実質GDP(国内総生産)成長率見通しを下方修正する見込みだ。これまで08年度は前年度比1.2%としていたが、1%割れは必至。09年度も1.5%から引き下げられそうだ。

 「米国の景気減速の影響は津波のように全世界にじわじわと押し寄せてくる」。スズキの鈴木修会長は危機感を募らせる。

 同社は海外売上高比率が約7割と他の自動車メーカーに比べて高く、特に急成長市場のインドで5割以上の販売シェアを占める。ところが、このところインドの自動車需要が冷え込み、同社の現地生産台数も7、8月の2カ月連続で前年割れとなった。「もう悠長に構えていられない」。鈴木会長の焦燥感は強い。

 トヨタ自動車も、中国の合弁会社「広州トヨタ」の第1工場(広東省、年産能力20万台)で今月からラインの稼働速度を落として減産態勢に入った。同工場では小型車などを生産しており、減産幅は1割程度とみられる。世界経済減速の影響は、急成長を続けてきたインドや中国の自動車市場さえも飲み込んでいる。

 9月短観は、大企業製造業のDIがマイナス3で、4期連続で悪化した。特に、外需依存度の高い加工業種の落ち込みが目立つ。自動車が前回の6月調査から10ポイント悪化したのをはじめ、一般機械、精密機械、電気機械も軒並み悪化した。輸出に急ブレーキがかかっているためだ。

 背景には、米国発の景気減速が欧州だけでなく、「世界の工場」として急成長を続けてきた中国、インドなど新興国経済にも波及していることが挙げられる。短観では、海外市場の需要と供給の度合いを示す「海外での製品需給判断」は05年12月以来、2年9カ月ぶりの供給過多となり、外需の減退が鮮明となった。先進国経済が減速しても新興国の成長が世界経済を下支えるという「デカップリング(非連動)」の構図は明らかに崩壊している。

 ≪素材業種は悪化一服≫

 一方、鉄鋼、石油・石炭製品など素材業種では、原油価格が7月に1バレル=147ドルのピークをつけた後に急落するなど資源価格の下落効果が表れてきており、業況悪化が一服した。これらの業種では資源高騰によるコスト負担分の製品価格への転嫁も進展しており、収益圧迫要因は急速に和らいでいる。「真っ暗闇の中での一筋の光明」。第一生命経済研究所の熊野英生主席エコノミストは、資源価格の下落効果が世界経済の減速に伴う輸出減の相殺につながることを期待する。

 ただ、素材産業よりも「川下」の業種では依然、価格転嫁は不十分で、コスト負担が業績を圧迫している。短観では、大企業非製造業のDIの悪化幅が、日本が金融危機に見舞われていた1998年3月以来、ほぼ10年ぶりの水準となった。不動産市場に流れ込んでいた海外マネーの縮小に伴って市況悪化に直面する不動産のほか、電気・ガス、小売りなどで悪化が顕著だ。


 ■原油と外需の「綱引き」

 「サブプライム問題に端を発する世界金融市場の混乱による信用収縮で、金融機関からの資金調達が難しくなり、今年3月ごろから資金繰りが悪化した」

 9月26日に負債総額114億円を抱えて民事再生法適用を申請した東証1部の不動産会社シーズクリエイトの幸寿社長は倒産会見で、経営環境の急速な悪化を嘆いた。

 企業の業績悪化の影響は内需の柱の一つである設備投資にも及ぶ。大企業製造業の08年度設備投資計画は前回から下方修正された。

 経常利益計画でも、大企業製造業は08年度上期が20.7%減と、大幅に落ち込んだが、下期は1.4%増と回復基調の見通しとなった。しかし、金融危機の拡大を背景に欧米向け輸出がさらに減少し、利益計画の下方修正に追い込まれてもおかしくない状況で、日銀幹部は「下期の見通しは楽観的すぎる」と指摘する。

 企業部門の不振は、家計も直撃する。コスト上昇分を製品価格に転嫁する動きがなお続いており、自動車や家電、食品など暮らしにかかわる幅広い商品・サービスの値上げが相次いでいる。賃金上昇が抑制される中、消費者の生活防衛意識も強まり、8月の家計調査では物価変動の影響を除いた実質消費支出が6カ月連続で前年水準を下回った。

 さらに、8月の有効求人倍率が4年ぶりの低水準に落ち込むなど雇用情勢も悪化。家計が一段と節約志向を強めるのは確実だ。

 今回の日銀短観は国内の景気悪化が進んでいることを再確認する内容となったが、企業からの回答の7~8割は米証券大手リーマン・ブラザーズが経営破綻(はたん)した9月15日以前に集中しており、その後の金融危機の影響は限定的だ。このため、足元の企業の景況感は「一段と悪化している可能性もある」(日銀幹部)。

 今後の日本経済は当面、原油下落効果と世界経済の減速による外需の減退との「綱引きとなる」(熊野氏)との見方は強い。

 経済同友会が実施した経営トップのアンケートでは、景気回復時期について「09年7~12月」が全体の46.8%と最も多く、「10年1~6月」が続いた。ただ、金融危機の連鎖懸念が強まる中、震源地である米国が対応を誤れば、世界経済の変調がさらに長引き、日本経済の回復も大幅に遅れる可能性もある。




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